熊本地方裁判所 昭和39年(ワ)477号 判決 1965年9月29日
原告 平居久子
被告 三和タクシー有限会社
主文
被告が原告に対し昭和三九年二月一四日した解雇処分は無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める判決
一、原告の求める判決
主文と同旨の判決
二、被告の求める判決
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第二、主張事実
一、請求の原因
1 被告有限会社は、タクシーによる自動車運送事業を営むものであり原告は、昭和三三年六月被告会社に雇傭され配車係として勤務してきたが、同三八年四月ごろ事務職員として執務することを命ぜられ稼働してきたところ昭和三九年二月一四日原告の行為が被告会社就業規則第一四条第一、二号に該当するとの理由で解雇の通知をうけた。右就業規則第一四条第一号は、事業の運営を妨げ又は著しく協力しないときと言うのであり、同第二号は、勤務成績不良又は素行不良であつて従業員として不適と認めたときと言うのである。
2 被告会社が前記就業規則に該当するものとして主張し、解雇の具体的理由としているのはつぎのとおりである。すなわち
(1) 被告会社は、その営業政策として熊本郵政局その他被告会社のタクシーを頻繁に利用する若干の官庁、会社等に対しては代金は後日払とする掛乗車を認めており、右大口の乗掛債権の集金は専任の集金係のほか原告ら女子職員が適宜応援することになつており、昭和三九年一月二四日には原告が従前の慣例からして熊本郵政局に赴いて右集金事務に従事すべきであつたところ、集金に行かないのみならず、同僚事務職員谷田サエ子、内野美代子らが集金に行こうとするのを阻止しその結果会社の集金事務に多大の支障をきたした。
(2) 原告の被告会社における主たる職務内容は未収金推移表の作成にあつた。未収金推移表とは日々の乗掛債権を集計総合してこれを各月毎にまとめた一覧性のある表としたもののことで、右表によつて得意先毎に乗掛債権額やその取立回収関係を明らかにしもつて会社経営管理の用に資すべき重要な表である。右推移表は、各月の分をその翌月の二〇日までには作成提出することになつていたところ原告は昭和三八年一一月分の推移表を翌三九年二月上旬になつてはじめて提出すると言う勤務状況であつたため、会社は年末の集金事務を円滑に行うことができず経営管理上重大な支障を生ずることとなつた。
(3) 昭和三九年二月八日ごろ被告会社花畑町営業所前でその従業員のみならず一般通行人に対してまで内容虚偽の会社を誹謗するビラを配付しその信用を傷つけかつ会社で雇傭している運転手をせん動した。右ビラには原告らの結成したと称する組合名がすりこまれているが実は全く正規の労働組合の関知しない原告個人の勝手な行為である。
(4) なお解雇の事情として、原告の後記4(1)(ハ)の職場離脱行為が違法なものであつたため、昭和三九年一月六日始末書の提出を求めたのを拒否したので同月一八日原告を減給処分にしたにもかかわらず、なお改悛の情を示さずひきつづき前記のとおりの勤務態度、成績であつたことをあわせ考えた。
被告会社が本件解雇の具体的理由として主張するところは右(1)ないし(4)のとおりである。
3 右解雇の具体的理由として主張する前記2の各事実中(1)のうち原告が被告主張の日時に在来の慣習に従つた集金事務に従事しなかつた事実、(2)のうち被告主張のとおりの事務に従事し昭和三八年一一月分の未収金推移表の作成提出を遅滞したこと(3)のうち職員の待遇改善を要求するビラを被告主張の日時に配付したことおよび一斉職場離脱による減給処分をうけたとの各事実は存在する。しかし右事実は後記のとおりの事情でなんら怠慢ないし非協力と目すべきものではない。
4 本件解雇は無効である。すなわち
(1) 右解雇は原告が後記のとおり被告会社事務職員労働組合を結成してその正当な行為をしたことを決定的原因としてなされたものである。
(イ) 会社の待遇の劣悪なことに不満をもつていた事務職員ら九名全員は、昭和三八年一一月末ごろから団結して会社に対し労働条件の改善を要求することを決意し、原告も他の事務職員とともにその運動に参加し、代表者赤尾善喜を通じて会社と団体交渉の結果同年一二月二三日「会社は昭和三八年一二月から翌年四月一日の定期昇給まで臨時手当として一率に毎月一、五〇〇円を支給し、昭和三九年四月一日臨時手当額を本俸におりこみ併せて定期昇給を行うこと」他二項目の実行をなすむねの労働協約が成立した。
(ロ) ところが右交渉妥結後間もない昭和三八年一二月二六日会社は、赤尾善喜を解雇した。
(ハ) 右解雇に抗議しこれを撤回せしめるため、原告は、赤尾解雇の日に直に同人および平岡義勝ら事務職員ら六名とともに労働組合を結成し三和タクシー事務職員労働組合と命名し、組合長に平岡を、書記長に赤尾を選任し、原告自身は執行委員の地位につき赤尾解雇の翌日である同月二七日は組合の当然の争議権の行使として全日職場離脱の争議行為を行つた。
(ニ) 被告会社が解雇理由中で主張するビラの配付行為も労働者の待遇改善を要求する前記労働組合の正当な行為の一環として行われたものでその内容についてもなんら不当な点はない。
(ホ) なお原告とともに前記労働組合を結成した事務職員計七名のうち原告および前記赤尾は前記載のとおり解雇され、梅田良子は昭和三九年一月二六日解雇され、谷口サエ子、内野美代子は同年二月一三日強制的に退職させられている。
(ヘ) 被告会社が本件解雇理由として主張する事実中原告が認める部分についてはなお後記のとおり正当な理由があつてのことでなんら怠慢の責を負うべきものではない。
以上の次第であるから本件解雇は労働組合法第七条に違反し無効と言うべきである。
(2) 本件解雇は解雇権を濫用するものでこの点からも無効である。すなわち被告主張の解雇の具体的理由のうち2(3)のビラの配付行為および2(4)の争議行為が正当な組合活動として行われたものであること前記のとおりであるほか
(イ) 昭和三九年一月二四日原告が被告主張の集金事務に従事しなかつたのは原告の本来の事務が当日多忙にすぎたため従前慣行的に行つていた集金事務を応援する余力が全くなかつたためでやむを得ないところであり、他の事務職員が応援に行くのを阻止した事実はない。
(ロ) 未収金推移表の作成提出が被告主張どおりおくれた事実はあるが、それは毎日の仕事量が過多であつて相当の努力にもかかわらず遅延したもので原告が被告会社に対して非協力的態度をとつた故ではない。
以上被告主張の解雇の具体的理由はなんら根拠なく従つて本件解雇は解雇権を濫用したもので無効と言うべきである。
二、原告主張事実に対する認否と被告会社の主張
請求の原因1、2の事実の全部(2の被告会社の主張する解雇理由の内容である具体的事実は全部存在する。)、請求原因4(1)(イ)のうち赤尾善喜が団体交渉の代表者であつたとの点および労働協約が締結されたとの点をのぞく事実、同4(1)(ロ)の事実、同4(1)(ハ)の事実中原告ら計七名が職場離脱をした事実、同4(1)(ホ)の事実中梅田良子らが原告主張の日時に被告会社との雇傭関係を断つにいたつた事実は認める。
もつとも梅田は試用中であつたので不採用にしたまでであり、他二名は全く任意に退職したのである。
赤尾善喜が団体交渉の代表者であつたとの事実、労働協約が原告ら交渉団体と被告会社間に成立したとの事実、請求原因4(1)(ハ)のうち原告らが労働組合を結成しその正当な権利行使としてストライキを行つたとの事実、同4(1)(ニ)のビラの配付が労働組合運動の一環としてなされたとの事実、本件解雇が不当労働行為にあたるとの事実および請求の原因4(2)記載の事実は全部否認する。
第三、証拠関係<省略>
理由
一、前記事実中に摘示したとおり請求の原因1、2の事実、同4の(1)(イ)のうち赤尾善喜が交渉団体代表者であつて、労働協約が右交渉団体と被告会社間に成立したとの点をのぞくその余の事実、同4(1)(ロ)の事実、同(ハ)の事実中原告ら七名がその主張の日時に一斉に職場を離脱した事実、同(ホ)の事実のうち梅田良子らが原告主張の日から被告会社との雇傭関係を絶つにいたつたこと、および被告主張の解雇理由の具体的内容のうち原告が請求原因2(2)の未収金推移表の作成提出を遅滞した事実、同2(1)の集金事務の応援をしなかつた事実、同2(3)のビラの配付をした事実、同2(4)の一斉職場離脱行為により原告が減給処分をうけた事実はいずれも当事者間に争いがない。
二、右当事者間に争いのない事実の一部に証人赤尾善喜の証言原告本人尋問の結果をあわせ考えると、原告は昭和三三年六月被告会社に雇傭されてから昭和三八年一一月ごろまでの五年余の期間をなんら特別の問題もおこすことなく普通の成績で勤務してきたことが認められ右認定事実に反する証拠はない。
三、成立について争いのない甲第一号証、同第一〇号証証人赤尾善喜の証言によつて成立の真正であることの認められる甲第二号証および同証人の証言ならびに前記当事者間に争いのない事実の一部を綜合するとつぎの事実を認めることができ右認定事実に反するような証拠はない。
すなわち被告会社の待遇に不満をもつていた事務職員ら九名(事務職員全員)は、昭和三八年一二月七日ごろ会社に対し集団的に労働条件の改善を要求し、右要求の結果同年一二月二三日「会社は昭和三八年一二月から翌三九年四月一日の定期昇給時期まで臨時手当として一率に毎月一、五〇〇円を支給し同年四月一日臨時手当額を本俸におりこみ併わせて定期昇給を行うこと」その他二項目を含む事項の実行を会社に約せしめ、右の集団的交渉関係において赤尾善喜が主動的役割を果たしたこと。
もつとも労働組合としての団体組織を具備しない単なる労働条件改善のための一時的交渉団体には労働組合法所定の労働協約の締結能力はないと解すべきところ、右の約束当時原告らを構成員とする労働組合が存在しないことは、原告が労働組合を結成したのは昭和三八年一二月二六日である旨自陳しているところであるから、右約束をもつて労働協約と目することのできないことは論をまたない。
四、昭和三八年一二月二六日赤尾善喜が解雇され、翌二七日原告ら七名が一斉に集団で職場離脱をした行為(当事者間に争いがない。)が労働組合の争議権の行使としてなされたかどうかにつき、いずれも成立について争いのない甲第四、第五、第八、第一〇号証には右の職場離脱集団が昭和三八年一二月二六日原告ら七名により結成された労働組合であるかのようにうかがわれる記載があり証人赤尾善喜の証言中には同旨の供述部分があるけれども労働組合は「団体」であり、その永続的団結力をもつて使用者と対等に交渉するものである以上単なる個人の一時的集合体と異り構成員の資格、内部組織、意思決定の方法とその実行機関、機関の権限、組合運営上必要とする財産的基礎等についての根本的規約を有しこれによつて永続的に統制ある行動をなしうるように組織されてあることが必要であると解されるところ、右職場離脱集団は、赤尾善喜の解雇された一二月二六日夜急拠原告方に集合して結成されたものであることが前記各証拠から認められ、前示甲第四号証中には組合長、書記長、執行委員、会計等の職名の記載があるけれどもいかなる権限をもつどのような機関であるかわからず単なる内部的申し合わせ程度のものと推認され、前示の趣旨の団体の基礎となるべき根本的規約を有していた事実は本件全証拠によつてもなんら認められず、従つて原告らの職場離脱集団は「三和タクシー事務職員労働組合」と称してはいても、赤尾善喜の解雇に抗議することを主たる目的とし、あわせて自分らの労働条件を改善するために会社と集団的に交渉するための一時的集団であつていわば一種の争議団体と認めるほかはない。
五、成立について争いのない甲第四ないし第八号証、乙第五号証によれば前示集団の構成員のうち解雇済の赤尾善喜をのぞく六名は、同人の解雇の撤回につき被告会社となんら正式の交渉をもなすことなく解雇の翌日である昭和三八年一二月二七日突然一斉に職場を放棄する争議行為を実行したことを認めることができる。
成立に争のない甲第一〇号証中には同月二六日および二七日午前一〇時ごろ前記のいわゆる「組合」は解雇の撤回につき被告会社と交渉したむねの記載があるけれども前認定の用に供した証拠と比照すると到底信用できず、他に右認定事実に反するような証拠はない。
ところで争議行為は、労使双方の平和的交渉によつて労働条件その他の交渉事項について妥協できなかつた場合に当事者一方の主張を貫徹するためにとられる非常実力行使の手段であるから、前記のとおり解雇の撤回についてなんらの交渉をせず突然に一斉職場離脱を行うと言うが如きは違法な争議行為であることは多言を要しないところであり、前示甲第六号証、第一〇証に証人野島一広の証言および原告本人の尋問の結果をあわせ考えると右職場離脱を原因として原告らは始末書の提出を要求され、これに応じなかつたため、昭和三八年一二月二八日から同月三〇日まで、および同三九年一月四日から六日までの計六日間出勤を拒否され、さらに同年一月分については月額の一〇分の一の減給処分をうけていることが認められ、右認定に反する証拠はないが、右会社の各処分はあながち不当と言うを得ない。
六、証人江良茂男の証言によれば原告は、事務職員となつた後上司である江良茂男からなすべき職務内容について詳細な説明をうけ未収金推移表の作成事務に従事するとともに各月九日と二四日の二日間は慣行として被告会社の大口利用者で乗掛債権も相当多額に及ぶ熊本郵政監査局に出向いて集金事務に従事することになつていたところ、昭和三九年一月二四日には右集金事務を怠りために集金事務に多少の支障を生じたことを認めることができる。もつとも同証言と原告本人の尋問の結果によれば同日同局から領収証を作成持参せよとの電話があり、領収証の作成に手間どつて集金がかなり困難であつた事情を(右困難の程度が集金事務を不能にする程度のものであつたとの趣旨の原告本人尋問の結果中の供述部分は前同証言と比照すると信用できない。)認めることができ右事情と集金を怠つたのが一回だけであることを考えれば右事実を原因として原告を解雇することは重きに失すると言わねばならない。なお証人江良茂男の証言中原告が前同日他の女子職員が集金に出向くのを阻止、妨害したと供述する部分があるが、右は想像に基く推測の域を出ずこれだけでは集金阻止の事実を認定することはできず、他にも右阻止の事実を認めしむるような証拠はない。
七、当事者間に争いのない事実の一部と成立について争いのない乙第一号証の三、第二号証の一ないし三に証人江良茂男、同川島篤行、同田中進の各証言を綜合するとつぎの事実を認めることができる。すなわち原告は、ほか一、二名の事務職員とともに日々の乗掛債権を整理集計してこれを得意先別の明細が一覧できるような月計表である未収金推移表と称する表に作成する事務に従事してきて、右推移表は各月の分を翌月の二〇日ごろまで作成して提出することになつていたところ右表の作成事務を怠つて昭和三八年一一月分を翌昭和三九年二月上旬ごろまで提出せず、原告解雇後その後任となつた川島篤行がその後の事務に着手したときも同表の作成関係事務は一二月以後の分についても約二ケ月分遅延していた。右表は大口利用先の乗車賃の未収債権を一覧表としてその取立の資料に供するものであるから迅速に作成する必要がありその作成のために二、三名の事務職員を使用していることからもその遅延により経済管理上不都合の生ずることは容易に推認できる。原告本人の尋問の結果中には右推移表の作成が遅延したのは同表の作成事務には過大な労力を要し原告は従前月に八〇時間もの残業をして作成してきたのが当時家事の都合により残業が不能になつたことと、前示のとおり原告は年末から年始にかけ計六日の出勤停止処分をうけその間に四日間の年末年始の休暇がはさまつたうえ出勤停止中その事務を執らせるため臨時に雇つたアルバイト中学生が事務不馴れのため誤が多く、その訂正のため多大の労力を必要としたむね供述する部分があるが、労務が著しく過激であつたことは前認定の用に供した各証拠と比照して信用できず、出勤停止処分は一二月下旬からのことであつて一一月分の推移表の作成とは関係なく、アルバイト学生のための誤もその期間が一〇日に満たないと認められることからも、かりに若干家庭の事情の都合があつたにせよ、その前の数ケ月間なんの滞りもなく同表が作成されていることを考えれば右表の作成の遅滞の原因は原告の勤務態度が相当に怠惰不誠実であつたことによると認めざるを得ず未収金推移表の前示重要性から考えて、右のような勤務態度が会社からの厳重な警告ないし訓戒を無視してある程度の期間継続するならば会社就業規則に触れるものとして解雇せられてもやむを得ない程度のものと言うべきである。しかしながら原告が右のような勤務態度を示した期間は合計三ケ月に満たず(一〇月分の未収金推移表の作成遅延は本件についてなんらの問題になつていないところからその提出期限である一一月二〇日ごろまでは勤務態度には特別の問題のなかつたことが推認でき、原告が解雇通知を受けたのが翌年二月一四日であることは当事者間に争いがない)しかも前記証人江良および同田中の証言によれば右期間中被告会社としては原告に対して前記表の作成方について若干の督促をしただけで特に勤務態度について厳重な警告を発し又は訓戒をしたこともないことが認められ、右認定に反するような証拠はないから前示のとおり原告が五年余も誠実に勤務してきた事実に比照すると、前認定の程度の勤務懈怠に対して特別警告も発せずに突然解雇をするのは著しく重きに失すると言うべきである。
八、当事者間に争いのない事実と成立について争いのない乙第三号証、証人江良茂男、同野島一広の証言および原告本人尋問の結果ならびに当裁判所の検証の結果によれば、原告は昭和三九年二月上旬前認定の職場離脱集団の集団意思に基づき被告会社運転手および事務職員らの待遇改善と福利施設の改良を要求する趣旨のビラを熊本市花畑町の被告会社営業所等で会社従業員および一般通行人に配付し、右ビラ中には同営業所の宿直所が豚小屋同然であるむねの記載があり、右記載部分はかなり事実を誇張した表現であるうえ、前認定のとおり組織された労働組合の存在を認め得ない本件では組合活動の一環と目することのできないのは当然であるけれども、一般に労働条件の改善を訴えるビラの記載内容が事実をある程度誇張して表現されることは会社経営者または上司個人に対する無根の中傷記事等甚だしく不当で労働条件の改善の目的から逸脱するような内容を含むものでないかぎり、やむを得ないところであり、配付ビラの一枚である前示乙第三号証の記載内容を全体的に通読してみると、右記載部分は従業員の待遇改善および花畑営業所宿泊所施設の改良等を要求すると言う趣旨以外のものではなく、特に被告会社の名誉を著しく害し信用を失墜せしめるおそれのあるものとは認められず、右ビラの配付をもつて前記就業規則に該当するものとして原告を解雇することもまた著しく重きに失するものと認められる。
九、前認定の事実を綜合すると組織された労働組合の存在を認めることができず、また原告自身に違法な争議行為の認められる本件については、かりに梅田らの解雇について若干被告会社の圧力が加わつた事実があつたとしても本件解雇をもつて正当な労働組合活動を決定的原因とするものとは認めることはできないが、前示六ないし八に認定した原告の行為を全部あわせそれに前示の減給処分の存在を事情として考慮してもその所為をもつて被告会社就業規則第一四条第一、二号の規定に該当するものとしてこれを突然解雇することは著しく重きに失し就業規則所定の解雇の権限を濫に行使したもので右解雇は無効と言うべきである。
以上の次第で本件解雇の無効確認を求める原告の請求は正当であるから認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石川哲男)